相続の手続きを進めようとしたら、相続人の一人が認知症で手続きができない・・・あるいは、自分がこの先認知症になったら、どうなってしまうんだろうとご心配な方もいらっしゃると思います。
ここでは、成年後見制度について、ご説明致します。
法定後見と任意後見について
まず、成年後見制度には2種類あります。
一つが法定後見、もう一つが任意後見です。
簡単に言うと、
「法定後見」:すでに認知症など判断能力の無い方に後見人をつける制度
「任意後見」:将来、認知症などになった場合に備えて、後見人を準備しておく制度
といったところでしょうか。
大きなちがいは、後見人を選ぶのは誰か?というところです。
詳細について、見てみましょう。
法定後見について
法定後見とは、認知症など「判断能力が不十分となった後」に、後見人をつける制度です。
たとえば、父親が亡くなった場合の遺産相続において、母親が認知症で遺産分割協議に参加できない場合、法定後見人を選任し、法定後見人が母親の代わりに遺産分割協議に参加したりします。
「判断能力が不十分」とは誰が決めるのか?という点ですが、医師の診断書によります。
不十分の程度によって、3種類に分けられます。
法定後見人の種類
- 「後見」:判断能力を欠く状態
- 「保佐」:判断能力が著しく不十分な状態
- 「補助」:判断能力が不十分な状態
一番症状の重い状態が「後見」で、「補助」は比較的症状が軽い状態となります。
医師の診断書に、どの状態が適当か、選択する欄があります。
認知症の場合、日によって程度が異なることも多いですし、たとえ家族であっても判断がつきにくいため、後見人が必要かどうかは医師に診断書を書いてもらいましょう。(診断書の様式があるため注意)
この3種類のどれになるかによって、ご本人が単独でできること、後見人に代わりにやってもらうことなどの内容が変わってきます。
◎どうやって法定後見人をつけるのか?
医師に認知症等と診断され、後見人が必要となった場合、どのように手続きするのか?という点ですが、後見人は家庭裁判所で選任されます。
①家庭裁判所に申し立てをする
申し立てができる人ですが、法律で決まっています。
【後見の申し立てができる人】
- 本人
- 配偶者
- 4親等内の親族
その他にも、任意後見人や市町村長もできるのですが、親族が申し立てる場合は、上記の方々です。
判断能力の無いご本人が申し立てるというのが、いつも変な気がするのですが、法律上できることになっています。
ちなみに、家庭裁判所は、ご本人(後見をつけられる方)の住所地を管轄する裁判所でないといけません。
また、この時、後見人の候補者を立てることができますが、その通りになるかどうかは裁判所次第です。
②家庭裁判所での審理
申し立てがあると、家庭裁判所で審理が行われます。
これは、診断書の内容を確認し、申立人やご本人に調査官がお会いするというものです。
ここで、後見や保佐の場合は、原則、判断能力に関する鑑定が必要となり、鑑定費用(申立人負担で5~10万円ほど)がかかります。
本人負担ではないので、ご注意を!
③審判
裁判所が後見人を選任します。
④告知(通知)
本人、申立人、後見人に通知がきます。
この後、2週間、誰からも不服申し立てが無ければ、審判が確定します。
そのため、通知が来てから2週間は待つことになります。
⑤登記
後見人が決まると、登記がされます。
これは、家庭裁判所から法務局へ通知されるものなので、申立人等は特に何もしなくていいです。
登記が完了すると、後見人に通知がきます。
⑥初回報告
後見人は財産目録を作成し、裁判所へ初回の報告を行います。
これが終わるまでは、緊急の要件以外、本人の財産を使ってはいけないことになっています。
⑦後見開始
銀行等に後見人に選任されたことを伝え(登記事項証明書が必要)、いよいよ後見の開始となります。
◎後見人ができること、できないこと
後見人を選任したからといって、何でもやってもらえる訳ではありません。
後見人ができること、できないことをご紹介いたします。
後見人ができること
大きく分けて、2つあります。
一つが、生活や療養、看護に関することです。
たとえば、後見人は代理でこんなことができます
- 病院に入院する際の契約、医療費の支払い
- 賃貸マンションや施設等、住居に関する契約、費用の支払い
- 介護サービスの契約、費用の支払い
- 要介護、障害認定の申請
もう一つ、大きな役割が、財産管理です。
たとえば、後見人はこんなことができます
- 預貯金や現金の管理
- 年金の申請、受領
- 医療保険などの請求
- 相続に関すること
- 郵便物の確認など
※後見、保佐、補助の種類によって、代理でできることとできないことがあります。
後見人ができないこと
では次に、後見人ができないことを見てみましょう。
後見人はこんなことはできません
- 介護自体(食事やトイレの補助、車イスを押すといった行為)
- 医療行為(手術、ワクチン接種など)の同意
- 強制を伴うこと(入院の強制、施設入所の強制など)
注意が必要なのが、入院の手続きは代理でできても、手術など医療行為の同意はできないといった点です。
また、食事やトイレなどの介護行為自体もできません。
任意後見について
今はまだ判断能力のある方が、将来の不安に備えて後見人を選んでおくというのが「任意後見」です。
法定後見は裁判所が後見人を選任するのに対して、任意後見は自分が元気なうちに、誰に任せるのかを決めておくことができます。
決めた相手(任意後見受任者)と「任意後見契約」を結びます。
契約しただけでは、任意後見となるわけではなく、裁判所で任意後見監督人を選任して初めて、後見人となります。
◎任意後見契約の種類
任意後見契約には、3種類あります。
任意後見契約の種類
- 将来型:任意後見契約のみ結んでおく
- 即効型:任意後見契約を結んだ後、すぐに任意後見監督人を選任してもらう
- 移行型:財産管理などの委任契約を結んでおき、将来、判断能力が低下したら任意後見に移行する
2は法定後見制度があるため、あまり利用しません。
3で委任契約を結ぶ理由は、判断能力が落ちる前であっても、足腰が悪いなどの事情で、代理で何かを行ってもらいたい時などに使います。
◎任意後見契約の結び方
それでは、実際にどのような手順で任意後見契約を結ぶのか?というところを説明していきます。
①誰に何を依頼するのか考える
任意後見人を誰に依頼するのか?どういった内容を代理で行ってもらいたいかを考えましょう。
この時、後見人は誰でもいいですが(親族でも専門家でも)、欠格事由に該当する人は後見人になれません。
欠格事由とは、たとえば未成年者や破産した人などです。
②任意後見契約書(案)の作成
任意後見契約の場合、この段階ではまだ裁判所は関与しません。
ご本人と、将来後見を任せたい人で、任意後見契約書の原案を作成します。
③公証役場で任意後見契約を結ぶ
任意後見契約の場合、裁判所ではなく、公証人に契約書を作成してもらいます。
②で作成した原案をもって、公証役場に行きましょう(突然行くのではなく、事前に電話で予約をしましょう)。
契約書の原案以外にも必要なものがありますので、公証役場に確認しましょう。
また、契約書の作成に手数料がかかりますので、その費用も聞いておきましょう。
④登記
公証役場で無事任意後見契約が結ばれると、公証人からの依頼で登記されます。
ご本人等がすることは特にありません。
この後は、通常の生活を送ります。
ご本人の判断能力が低下してきたら、次のステップに進みます。
⑤家庭裁判所へ任意後見監督人の選任申立てをする
ご本人の判断能力が低下してきたら、家庭裁判所へ任意後見監督人の申立てをします。
法定後見とちがって、任意後見の場合、当事者のみで決めた人なので、きちんと職務を行っているか監督する人が選任されます。
申し立てができる人ですが、法律で決まっています。
【任意後見監督人の申し立てができる人】
- 本人
- 配偶者
- 4親等内の親族
- 任意後見受任者(契約で任意後見を引き受けた人)
家庭裁判所は、ご本人(後見をつけられる方)の住所地を管轄する裁判所でないといけません。
⑥登記
法定後見同様、審理、審判等を経て、任意後見人、任意後見監督人が登記されます。
いよいよ、任意後見契約書の内容に基づいて、任意後見の業務スタートです。
ちなみに、任意後見の場合、保佐や補助といった制度はありません。
任意後見のメリット・デメリット
2種類の後見についてご説明したところで、法定後見と比べて任意後見のメリット・デメリットを考えてみましょう。
◎任意後見のメリット(法定後見と比べて)
①後見人が自分で選べる
法定後見の場合、裁判所が決めるのに対して、任意後見では自分が元気なうちに、後見を任せたい人を決めることができます。
②後見の内容について事前に決めておける
法定後見の場合、判断能力の状態によって、後見・保佐・補助などが決まり、サポートする内容も裁判所が決めることになります。
任意後見では、元気なうちに契約を結ぶことで、サポートの内容についても自分で決めることができます。
③生前事務、死後事務なども頼める
任意後見契約を結ぶ際、あわせて「生前事務」「死後事務」などもあわせて契約することができます。
任意後見に付随する委任契約
「生前事務」:判断能力が低下するまでの間、契約した委任事務を行う
「死後事務」:葬儀など亡くなった後の委任事務を行う
事務というとデスクワークみたいですが、生前事務は例えば銀行等の財産管理であったり、介護サービスの利用契約であったり、後見と同じように代理でご本人のために動くことができます。
判断能力はまだ十分でも、足腰が悪いなど、ご本人の状態によって生前事務契約を結ぶこともできます。
死後事務は身寄りが無い場合などに、亡くなった後の手続き(葬儀、納骨など)を依頼することができます。
◎任意後見のデメリット(法定後見と比べて)
①監督人選任のタイミングを見定める必要がある
任意後見の場合、生前事務契約で後見人と同じような事務ができてしまうため、監督人を選任するタイミングが難しいと思います。
認知症等の症状は緩やかに進行することも多いため、ご家族やケアマネージャーさんなどとよくご相談して、監督人選任のタイミングは十分注意しましょう。
②監督人にも報酬が発生する
法定後見、任意後見ともに報酬が発生します。
任意後見の場合、契約で無料にしてもいいですが、通常は報酬をもらって事務を行います。
(法定後見の報酬は裁判所が決める)
監督人を選任した場合、任意後見人に加えて任意後見監督人にも報酬が発生するため(裁判所が決める)、ご本人の負担が増えます。
これは、①とも関係していますが、だからと言って、判断能力の低下した状態で生前事務のみを続けてはいけません。
まとめ
後見には2種類あり、それぞれの特徴をご説明致しました。
どちらを選ぶかは、今どんな状況で心配をされているかによってちがってきます。
冒頭の例で言えば、遺産相続で相続人が認知症で困っているのではあれば「法定後見」ですし、将来自分が認知症になった場合の心配であれば「任意後見」となります。
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